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インスタの“いいね!”や食べログの評価、主観的評価が溢れる時代だからこそ、どんな人が作っているのか知りたい。インタビューを通じて料理人の想いをご紹介。

料理人の履歴書
公開日:

Vol.1佐々木昭人(後編)/フレンチ

佐々木昭人(フレンチ)

カジュアルフレンチ レスパス(L’ESPACE):フランスの文化の基点、日仏会館にあるフレンチレストランの老舗。フランスの「旨い」を「カジュアルな雰囲気」で「安心の価格」にて提供。パンやデザートも全て手作りで提供されている。

  

なんだか分からないフレンチの味に惹かれて

エースで4番のちょっと達観したガキ大将、佐々木少年は、音楽の道を志すも貧乏ミュージシャンから現実を知り、伝を通じて天皇陛下の料理人に出会う。はたしてどんな修行時代だったのでしょう。

  

佐々木:日本教育会館というところに配属されてろくに休みもなく2年間やりました。もともと音楽でバークレーに行きたいと思っていた人間ですから、この頃に「こりゃフランスへ行かねば話にならない」と思い始めました。というのも、当時の私の職場で実際やっていることと言えば職員の皿ご飯調理なのです。クリームもないしバターなんてつかってない、炒め物などをはじめほとんど箸で仕事をするようなところでした。ちゃんとしたフランス料理なんてないですよ。2年間休みなしにやっていたのですが「こんなことやっていたらダメだな」と思って、渡辺さんに相談したのです。そうしたら「異動の直訴をしなさい」と教えて頂いて、上司に相談をしました。

 

そこから、大手町へ異動して1年間勤めました。休みもしっかりあって、自分の時間ができましたから、フランス語の勉強時間を増やして、21歳の時ようやくリヒテンシュタイン公国へ行きました。

  

編集部:フランス語も自分で勉強されたのですね。しかし何故フレンチへ進まれたのでしょう。

  

佐々木:もともとフランス料理という触れ込みで紹介してもらいましたからね。行くと決めた高校3年生のときにソニーのフランス語会話へも行きました。本質的なことが好きだったので、料理の写真をみて「素敵だな」とか、「こんなのを自分もつくって見たいな」なんてにやけるタイプではありませんでしたから、言語や文化などへ関心が向きましたね。時間をかけて外堀から埋めていくタイプでした。

そう、そんな折、高校3年のときですが、渡辺さんのプライベートの料理教室を手伝いに行ったことがあり、そのときに“モリーユ”という聞き慣れないきのこに帆立貝のムースをかけたものを食べさせてもらいました。その味が衝撃的で、当時の私には何の味なのか全く分かりません。素材の見当、味の見当がまったく思いつかないのです。イタリアンや和食、中華は、なにを食べているのかそれなりにわかりますよね。しかし、私の実体験もそうでしたが、フランス料理は分からないことが結構あるのです。それがフランス料理へ進む一番大きなキッカケだと思います。

この渡辺さんという方は、社交的で付き合いも多く、いつも人を自宅へ招いておられる方でした。私も高校3年のときからよく遊びにいきました。そこで様々なおいしいものを頂きました。みかんひとつとってもまったく味が違っていて、全国から選りすぐりの美味しいものばかり出てくるのです。その時いつもいただいていた味が、今私が作っている『ベジート』の味の考え方でもあるのですよ。

  

編集部:『ベジート』は野菜の旨みを凝縮したオイルですね。これは渡辺さんからヒントを頂いた味ということなのでしょうか。

  

佐々木:そうなのです。それを実現する為にも、リヒテンシュタインをはじめ世界を体験してきたことがとても役に立っています。

ヨーロッパへ学びに行ったとき、リヒテンシュタインではビザを持って行っていましたから給料もしっかり出ました。日本にいたときと比べると倍以上に上がって。でも私が楽しめるような娯楽は何もありません。何しろ人口3,4万人の国家です。少年ジャンプもありませんからね。あるのはスイスの美しい山並みと自分を見つめ直す“透明な時間”ばかり(笑)。いろいろと考える機会にもなりましたが、特にやることがあるわけでもなくお金だけもらえましたのでそれなりに貯金も出来ました。

そんな折、24歳のとき現地で結婚もしましてパリにある妻の家へ転がり込んだのです。パリでは三ツ星レストランを妻とよく食べ歩きしましたよ、溜め込んだお金が残っていましたからね。パリで三ツ星へ行く若者といえば、勉強のために来ているコックさんくらいですが、渡辺さんに教えて頂いた食事は楽しむものという精神そのままに、新婚夫婦二人で楽しんで食事をしながら学ぶことが出来たのはとてもよかったですね。今思えばあの日々は宝ですし、そういった経験も今の様々な仕事のベースになっています。

  

ちょっと話が変わりますが、実はもう10年以上経つのですよ、私がこの道に入るキッカケを作ってくださった渡辺さんが亡くなられてから。それがキッカケでいろいろなことを振り返りました。そのときに思ったのが『渡辺さんの味』です。パリの経験を含め数多くの有名レストランを食べ歩いていますが、渡辺さんの食卓の味や風味だけは、あそこでしか体験できないのです。あの味ってなんだったのか?私も料理人ですので、出来ないわけがないと考えはしましたがなかなか難しい。

渡辺さん独特の味があり、私はそれを10代から知っていますからね、作れないわけがない、そう思いましてね、亡くなって2~3年経ってからかな。試行錯誤しましたが今の『ベジート』を作り始めたのですよ。

『ベジート』の味を作る上で、パリの三ツ星レストランを堪能した経験もすごく役立っていますが、実はその後も旅を続けたことが一つの鍵になっているかなと思います。

  

ヨーロッパ、モロッコ、イスラエル、トルコ、イラン、パキスタン、インド、ネパール、タイ、香港、中国へと旅をして、ちょうど天安門事件のときに日本に帰ってきました。バックパッカーとして国々をめぐりました。旅の最中、その土地で食べられている主食と飲み物の記録をつけてながら、本当にいろいろなものを食べてきました。フランス料理はどこに手をかけるかというものですが、元々そうではないものも好きですので、飽きることがありませんでした。やはり国々の普通の人たちが食べているものが一番美味しい。では、そのおいしさっていうのは何なのか。その体験と疑問というのでしょうかね、それがあって、その土地で採れたものとその土地の油脂で、その土地の“旨み”ができているなということが見えてきました。その結果、野菜の旨みをオイルにうつす。そして私の経験からスパイスを加えて一つの料理として成立するような調味オイルを完成させる。そんなことを始めたのです。

ということで、渡辺さんの味を想ってつくり始めた『ベジート』ですが、世界の土地の旨みのあり方を理解する旅をしてきた経験も大いに役立ちました。

  

編集部:それが今佐々木さんのおつくりになっている野菜オイル、ベジートなのですね。ではベジートってどうやって食べたら一番おいしいのでしょう。

  

佐々木:もしかすると、『ベジート』ってその質問にうまく答えられないものなのかもしれませんが、フランス料理のように手間をかけた分をショートカットする味というのでしょうか、旨みを膨らませるものなので、いつもの料理にいつでもかけていただければよいのです。『味の素』といううまみ調味料とは違う手の込んだ自然の旨み。まぁ、野菜の中には旨みがあることはわかっていますので、そういう旨みを調理で引き出して凝縮したものです。何にでもかけて召し上がって頂きたいですね。

 

ただ、そんな風に私のあずかり知らないところで、ベジートで食事を楽しんでいただけるシーンがあちらこちらで起こればと。我々の仕事、レストランってダイレクトレスポンスしかないのですが、私は音楽をやっていたので、ライブハウスだけでなく自宅でもCDで音楽を楽しんでいただくように、自宅でも私の味を楽しんでいただけたら嬉しいですね。

  

編集部:なるほど、CDのように家庭でも楽しめるシェフの味ですね。今後どんな美味しいをプロデュースしていかれますか。

  

佐々木:私の知っている範囲では、こういう調味オイル、調味料のようなものってあまりないと思います。この価値がどこまで評価されるのか、通用するのか挑戦して見たいです。

マルセル・プルーストの

「真の発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい目で見ることなのだ」


The real voyage of discovery consists not in seeking new landscapes, but in having new eyes

という言葉が好きなのですが、私自身、プロフェッショナルとして止まることなく新しい目で物事をとらえられるよう成長してゆきたいと考えています。大げさかもしれませんが、日常の中でちょっと立ち止まって食事を考えるとか、日常の食卓なのだけどちょっと何かしてみようかな、そんなキッカケの調味オイルになったらいいなと。そういった価値の提供を行ってゆこうと考えています。最終的には、塩・コショウ・『ベジート』にしたい。オイルが食後感を決めますので、いつもの料理をより美味しく感じてもらえるよう日常のモノとして普及させたいです。

私事ですが、いま息子が大阪で一人暮らしをしており、『ベジート』を持たせています。例にもれずコンビニ弁当には大変お世話になっているようです。そんな息子から「コンビニ弁当にベジートをかけると華やかになるよ」そんな言葉を聞きました。美味しくなるではなくで、華やかっていうのですよ。

 

ああ、そんな気持ちにしてやろう。そんなふうに考えています。

  

編集部:ありがとうございました。

  

【店舗情報】

カジュアルフレンチ レスパス(L’ESPACE)

住所:東京都渋谷区恵比寿3-9-25 日仏会館

電話番号:03-5420-0719

営業時間:11:30~15:00 (L.O.14:00) 18:00~22:30 (L.O.21:30)

定休日:無休

最寄り駅:JR恵比寿駅東口 徒歩5分

URL:http://maison-lespace.sub.jp/

  

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