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2020年4月23日

佐々木昭人さん カジュアルフレンチ レスパス(前編)/インタビュー

料理人の履歴書

佐々木昭人さん カジュアルフレンチ レスパス

佐々木昭人 / フレンチ料理
カジュアルフレンチ レスパス(L’ESPACE):フランスの文化の基点、日仏会館にあるフレンチレストランの老舗。フランスの「旨い」を「カジュアルな雰囲気」で「安心の価格」にて提供。パンやデザートも全て手作りで提供されている。

野球と稲荷すしが好きな冷めてる子供

編集部:恵比寿有名フレンチのシェフで日本料理界の中でも様々な肩書きをお持ち、そんな風に聞くとちょっと伺いづらいのですが、どんな子供時代だったのでしょうか。

佐々木シェフ(以下、佐々木):子供の頃の話ですか、おもしろいですね、初めて聞かれたかもしれません(笑)。小学校の通信簿ってありましたね、アレの担任所感は6年間同じことを書かれていました。

『活発ですがみんなと一緒に物事を進めることは得意ではないのでがんばりましょう。』と。

もう、ずっと同じことを書かれ続けていました(笑)。いつも、自分自身がしたいことはなんなのだろう?とか、なんでこれをするのかな?これってどういうことだろう?そんなふうにものごとを俯瞰で考えたり、事柄の背景とか理由というのでしょうか、何故だろう、どんなだろうって考えていることころありました。その感覚は今の料理にもつながっていのだろうなと思いますが、ちょっとさめていたところのある子供でしたね。

編集部問題意識をもった小学生だったのですね。

佐々木:いや、そんないいものではないと思いますよ。たとえば「ボク、学校きちんと行ってえらいね」なんて近所のおじさんの社交辞令に対しても、「学校へ行くことの何がえらいのだろう?」そんな疑問が湧くというのでしょうか、性分だったのでしょうね。

私は昭和37年生まれですので、当時は年齢を問わず地域の子供が一緒になって遊んでいた時代です。昔は危険な工事現場にも入って遊べてしまえましたから“遊ぶ”に関しては相当わんぱくでしたよ。

特に野球が好きでした。近所のカミナリじいさんの屋敷にボールを入れて、よく叱られたものです(笑)。小学生時代は周りの子よりも発育がよくて、ひとまわり以上大きかったので4番でエースという典型パターンで目立っていました。リトルリーグもやっていましてね、自信家で思い上がっていた部分もありました。ただ、そういう者は鼻っ柱を折られる機会も多いのが常ですから、数多く折られ続けてきました(笑)。そのお陰か中学に上がってもグレることはなかったです。

編集部:野球の大好きなジャイアンみたいなポジションですね。ところで当時の好きな食べ物って何でしたか。

佐々木:食の記憶はそんなに特別なことはなかったですね。ちょうどカップラーメンが出始めの頃です。そういうものは食べちゃダメだよとか言われていたこととかの方を憶えていますよ。近所にデニーズができて何度か連れて行ってもらったので憶えていますが、ハンバーグに関してはお店で出てくる手づくりのものよりスーパーで売っている既製品を湯煎して食べるやつとかね、そんなモノのほうが美味しいって思っていました。親もごく普通で特別“食”にこだわりがある家庭というわけでもなかったです。

そういえば、親のお遣いで呼ばれて近所の喫茶店に何かを持っていった時に、プリンアラモードを食べさせてもらったことがあって、あれはうまかったなぁ。ちなみに好きな食べ物は何かと問われれば”稲荷すし”でしたよ。

編集部:その頃料理をされたことはあるのですか。

佐々木:う~ん、料理って意味合いではそんなにないですね。当時はものごとのトリックや仕掛けを探ったりすることが好きでした。科学的なものや変化していくことが好きだったのですね。料理も素材が変化していくじゃないですか。そんな理由で料理の本を見て作った事なら何度かあります。理科の実験のような要領・視点で面白がって作っていたと思いますが、そのような体験もあって料理のプロセスの中で何が一番大切な本質なのか?そういったことがすぐに理解できるようになったのだと思います。大人になっていろいろなコックさんたちと話をする機会ができて思いましたが、自分の強みとして秀でた部分になっているのだなと感じますね。

編集部:プロフェッサーというか、研究者のようですね。

佐々木:そうかもしれません(笑)。多くの料理人は学んだことの範囲からなかなか飛び出さない人が少なくありません。

たとえばフランス料理の価値というのは、宮廷料理として如何に手をかけ、如何にプロセスを経て供されるかということがその一つとしてとても重要になります。しかし、それは料金にも反映されますから本格的なものは気軽に食べて頂くことができません。

そこで、美味しさ以外の本質はいくつか省略してコストを下げることは出来ないものだろうかと考えました。料理の価値を損なわないよう自分の中で方程式をつくって、私が考える本質的な美味しさの価値を絶対に損なわないようにして料理を作る。そうでない部分はいくらでも譲る。そんなことをレスパスでは行ってきましたので、何とか続いているのでしょう。

編集部:佐々木シェフ方程式フレンチ、食べてみたいです。ところでどうして料理の世界を目指したのでしょう。

貧乏ミュージシャンより天皇陛下の料理人

佐々木昭人さん カジュアルフレンチ レスパス

佐々木: ちょっと長くなりますが、ざっと言うと、、、

野球が大好きだった少年があるとき音楽を好きになって、フォークギターを始めました。それがエレキになり、高校へ行ったときにベースを手にして、ジャズに染まっていました。

高校1年から新宿コマ劇場でボーイのバイトを始めていつかプロのミュージシャンになってやろう、そんな日々を過ごしていました。バイト先には日本のトップクラスの人たちが出演するのですが、意外なことに憧れのミュージシャンたちはあまりお金持ってないのです。「こりゃ音楽は厳しいかな・・・」なんて考え始めていたのですよ。

それでたまたまボーイの仕事でキッチンにいたので、ならば料理人になろうと安直に思っちゃったのです。ホント世間知らずというか、今思えば、そういうところにいるコックさんって流れ着いた人たちだったので、そんなに凄い人っていなかったのですが。ちょうどそんな折、知り合いを介してある方を紹介してもらったのです。それが宮内庁で『天皇陛下の料理人』という立場で腕を奮っていた渡辺誠さんでした。

当時18歳だった私は、すごいヨボヨボのじいさんかなと想像していましたが、予想に反して32歳という颯爽とした方でした。はじめてお会いしたときに言われた言葉が

「料理人なんてなるもんじゃないよ」

という一言でした。どうしてですかと問いますと「親分が右といったら右、というやくざみたいな世界。そんなとこだからね、君それでもやりたいかい?」といわれましたよ。やりたくないですよね、本心は。

ただ、そのとき渡辺さんが手に持っていたアルバムを開いて「料理人になったらこういった人たちと付き合っていくのだよ」と写真を見せてくださいました。当時の私にとっては顔も名前も知らない人ばかりですが、日本で活躍している人、フランス人の大物や“すごい人”ばかりです。そりゃもう単純に食えるかどうかのミュージシャンよりはこっちだなと。毎日6時間くらいベースを練習していましたが、もうその日からピッタリ練習を止めましたよ(笑)。物事を知らない子供でしたが、それくらい渡辺さんという方が魅力的に見えて、人として大人として彼に惹かれたのだと思います。この人についていこうと。ですから、料理の世界に憧れてとか、料理が好きだからっていうのはまったくありませんでした。打算と渡辺さんとの出会いが今の私の始まりだったのです。

そんな私も今は人を雇う立場なのですけれど、「料理が好きなんです」なんでいう子はあまり信用しないですね(笑)。好き嫌いなんて話はいくらでも変わってゆきますからね、だから「自分と約束しましょう、1年やるのか3年やるのか」そういうことを言います。「料理が好き!自分の料理でみんなを笑顔にしたい」そんなことは私自身も思ったことありませんからね。お店を持ったときも言われましたよ、いろんな人が来てくれましたが、ルレ・エ・シャトー協会の社長さんに「夢が叶ったね」っていわれましたが、それもピンときませんでした。そもそもお店を持つことがゴールとも思っていませんでしたから。

編集部:なるほど、バイト先で見たミュージシャンの現実と渡辺さんとの出会いによって今の佐々木さんがあるのですね。

佐々木:ただね、結構大変でしたね。何しろ渡辺さんという凄い方の紹介で、最初に喜山という会社へ入りましたたから。当時“マル優”と言われましてね、特別扱いのおぼっちゃんということで例に漏れずしっかりといじめられました。


エースで4番のちょっと達観したガキ大将、佐々木少年は、音楽の道を志すも貧乏ミュージシャンから現実を知り、伝を通じて天皇陛下の料理人にであった。そこで紹介された料理社会の厳しさとは。後編へ続きます。

【店舗紹介】
カジュアルフレンチ レスパス(L’ESPACE)
住所:東京都渋谷区恵比寿3-9-25 日仏会館
電話番号:03-5420-0719
営業時間:11:30~15:00 (L.O.14:00) 18:00~22:30 (L.O.21:30)
定休日:無休
最寄り駅:JR恵比寿駅東口 徒歩5分
URL:http://maison-lespace.sub.jp/

企画:オリーブノート編集部
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