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鈴木俊久さん インタビュー vol.2
オリーブオイルの素朴な疑問を、日本のオリーブオイル業界の第一人者である鈴木俊久さんにどんどん質問させていただくこの企画。
第2回目の今回は、「オリーブオイルの使い方」についてです。油の概念がゲシュタルト崩壊しちゃうかもしれません。
- 前回はオリーブオイルのヘルシーさの理由や、保存方法について伺いました。今回はオリーブオイルの使い方について教えてください。原産国の方では、オリーブオイルはどのように使われているのでしょうか?
鈴木: 原産国で言うと今は圧倒的にスペインの生産量が多いんですけど、イタリアやギリシャでも作られています。オリーブオイルを使っているのは、圧倒的に地中海沿岸地域の国々です。
― なるほど。原産国もいくつかあるわけですね。その国によって、オリーブオイルの使い方に違いはありますか?
鈴木: はい、国によって多少違いがあります。例えばスペインは、色んな油を非常に身近で使い分けている国です。スペイン料理では、オリーブの実を搾っただけの純粋な「エキストラバージンオリーブオイル」だけではなくて、「ピュアタイプ」と呼ばれる比較的安価で香りの弱いオイルもよく使われています。だから最近人気のアヒージョという料理なんかは、「ピュアタイプ」が加熱用のオリーブオイルとして浸透しているから生まれる料理ですよね。
一方のイタリアやギリシャのオリーブオイルは、加熱媒体としての認識よりも、調味料的な使い方の方が多いんじゃないかなと思います。
- 調味料的な使い方?オリーブオイルを調味料として使うんですか?
鈴木: はい。ピザだって地中海地方は焼く前にかけるような使い方をしますよね。日本だと、焼き上がってからかけることもあるようですが。
-そうなんですか?私たち日本人の食文化の中でのオイルと、地中海地方のオイルでは、オイルに対する考え方が根本的に違うということでしょうか?
鈴木: そうですね。向こうでオリーブオイルというと、日本でいうところの醤油の世界ですよね。
- 醤油ですか!?地中海沿岸地域では、オリーブオイルが醤油のような存在なんですか。
鈴木: そうなんですよ。そこらへんが最近日本でも少しずつ理解してもらえるようになってきたように思います。そこまで捉え方が広がってきたことが、オリーブオイルが決して一時期のブームだけで終わらなかった理由の一つではないかと思うんです。単に揚げるだけとか、炒めるだけのためのオイルだったら、ここまで続かなかったのではないかと。
料理にかけてみて、その料理が仕上がる。かけることで、料理の味が整う。そういうことが日本でも分かってきたのかな、と思います。
- なるほど。でも正直言って、オリーブオイルは醤油のように味が濃くないですし、調味料として使うのはハードルが高いと思うのですが・・・。
鈴木: そうですよね。ですから、まずはオリーブオイルの味に親しむところから始めてほしいと思います。オリーブオイルを買ってきたらいきなり料理に使うのではなくて、とりあえずは味をみていただきたいですね。
醤油皿か何かに少量とっていただいて、色とか香りを感じていただきたいんです。それで「このオリーブオイルはこんな味だったのね」とか、「この前のより辛みがあるかな?」とか、自分なりに感じてみるところから始めましょう。そうやっていくと、少しずつ自分でもオリーブオイルの味の評価ができるようになっていくんです。ワインと同じで、「私はこの系統の味が好きだから、これを選ぼう」となってきますから。
- ではいよいよオリーブオイルの醤油的な活用法ですが、具体的にはどうすればいいのでしょうか?
鈴木: 構える必要は全くありません。オリーブオイルって、本当に何にでも合いますよ。
難しいと感じるようでしたら、まずは醤油と合わせて使ってみてはいかがでしょうか。ドレッシングを作る時に醤油とごま油で作っていたのであれば、それを醤油とオリーブオイルに変えてみるとか。醤油とオリーブオイルは味の相性がとてもいいですから。普段お醤油をかけて食べるような、例えば、冷奴に醤油とオリーブオイルをかけてみるのもおススメです。そうやって醤油と混ぜ合わせて使ってみるのが、オリーブオイルの美味しさを知っていただくには一番手っ取り早い方法だと思います。
- 冷奴にオリーブオイルとは考えませんでした。オリーブオイルといえばパスタやサラダというイメージだったものですから。
鈴木: 日本にオリーブオイルが入って来たときに、そういうイメージが先行して広がりましたよね。もちろんパスタやサラダによく合います。オリーブオイル、レモン、クレイジーソルトを混ぜて野菜にかけるだけで、最高に美味しいサラダになりますから。
でもオリーブオイルはもっと何にでも使えますし、使うことで料理が美味しくなるんです。醤油とオリーブオイルに慣れて来たら、もっと幅を広げてみましょう。
目玉焼きを作る時に、普段醤油をかけるなら「塩とオリーブオイル」をかけてみるとか。お刺身をわさび醤油で食べていたなら、「塩とオリーブオイル」で食べてみるとか。
- 醤油をかけたくなる料理に対して、”塩とオリーブオイル”をかけてみるわけですね。
鈴木: そうです。美味しくなるので、皆さんビックリなさると思いますよ。
鈴木: あとは先ほどパスタっておっしゃっていましたけど、オリーブオイルは麺類と非常によく合うんです。
ですからラーメンにラー油を入れる方がよくいらっしゃいますけど、そこでオリーブオイルをかけてみましょう。塩ラーメンとオリーブオイルなんて、相性抜群ですよ。ご家庭でインスタントラーメンやカップラーメンを食べるときも、オリーブオイルを少し垂らすと味がランクアップします。
カップラーメンに調味油が付いていることがありますけど、それの代わりに「エキストラバージンオリーブオイル」をかけるといいですね。カップラーメンの味が高級になります(笑)
-麺類にオリーブオイルが合うということは、うどんや素麺にも使えますか?
鈴木: もちろん使えますよ。美味しいです。
冷たい麺でしたら、つけ汁にオリーブオイルを入れてみてください。そうすると、食感がよくなるんです。素麺とか最初はいいんですけど、食べ進んでいくうちにけっこう引っかかりますよね。そこにオイルが絡んでくると、ツルッといきやすくなるんです。醤油に合うオリーブオイルですから、もちろんめんつゆ系の味にもよく合います。
温かいうどんにオリーブオイルもまた美味しいんです。オリーブオイルにちょっとゆずの皮を刻んで入れたりすると、香りが溶け込んでうどんによく合います。味は濃くないですけど、「香りを移す」というのはオイルの得意技ですからね。
-醤油と合わせる。塩と合わせる。麺類と合わせる。これだけでもオリーブオイルの使い方のバリエーションがグッと豊かになりますね。
鈴木: これからの季節は、鍋にオリーブオイルを合わせるのもおススメです。魚介類にオリーブオイルはよく合いますから。私が特におススメしているのが、鍋の締めの雑炊を作る時に、オリーブオイルとパルメザンチーズをかけて食べる方法です。
-これから寒くなりますから、冬場のお料理に合わせる技は試してみたくなります。
鈴木: 鍋以外でしたら、ホイル焼きもこれからの季節にいいですよ。オリーブオイルをかけてからホイルに包んで、そのまま焼くので香りも栄養成分も逃げません。
-わが家には小さい子供が3人いるのですが、子どもでもとっつきやすくて、大人も大満足なオリーブオイルの使い方って何かありますか?
鈴木: そうですね。スイーツ系にオリーブオイルを合わせてみてはいかがでしょうか。甘いものとオリーブオイルもまた、すごく美味しいんです。
例えば、市販の比較的安価なストロベリーヨーグルトにちょっとオリーブオイルをかけてあげると、いちごの風味が立って凄く高級な美味しい味になります。
安いいちご大福にオリーブオイルをかけてもいいですよ。きなこ餅にも合います。パサパサした感じが消えて食べやすくなりますしね。
つまりスイーツにオリーブオイルをかけると、高級な味になるんです。だから敢えてコンビニで売っているような安いスイーツに合わせることをおススメします。
あのね、コンビニのレジの横で売っている安いバナナバウムクーヘンに、オリーブオイルってすごく合うんですよ。本格的なバナナっぽい味が際立つんです。
アイスにも合いますけど、高級アイスにかけるともったいないので、安いアイスにかけましょう(笑)結局高級なスイーツは、それだけで味が完成しているんです。だからオリーブオイルをかけると「余計なことしちゃったな」という気持ちになります。でも安いスイーツにかけると、不思議なんですけどすごく美味しいんですよね。イメージしている味に近づくような感じがします。
今回は、とにかくたくさんのオリーブオイルに合うメニューを教えていただきました。「これなら私にもできるかも」と思えるオリーブオイルの使い方に出会えたのではないでしょうか。鈴木さんが少しはにかみながら「でも失敗もありますから。最初に試すときは少量でやってみた方がいいですよ」と小声でおっしゃった姿がとてもかわいらしくて、オリーブオイルがグッと身近に感じた瞬間でした。
鈴木さんの貴重なお話はまだまだ続きます。
鈴木俊久さん
オリーブオイルテイスティング・パネルスーパーバイザー。2002年11月に、日本ではじめて国際オリーブオイル協会(International Olive Council:IOC)からオリーブ・オイル・テイスティング・パネルのカンパニーパネルとして認定を受けた、日本を代表する業界のスペシャリスト。一般社団法人日本オリーブオイルテイスター協会 顧問。
ヘルシーで様々な効能を持ったオイルへの注目が高まっています。中でもオリーブオイルの消費量は大きく伸び、同時に、ココナッツオイル、アルガンオイル、亜麻仁油、MCTオイルなど、なじみのなかった様々なオイルも注目されるようになってきました。
しかし、私たち日本人の日常的な食卓では、その活躍の幅はまだまだ狭く、真新しいノートのように真っ白な状態ではないでしょうか。 Olivenoteでは、読者の皆様の意見やオリーブノートアンバサダーへの参加を募りながら、カラダに美味しいオイルを中心に、楽しく健康的な食卓を築いて行ける情報を綴ってゆきます。