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鈴木俊久さん インタビュー vol.1
「オリーブオイルが体にいいらしい」「オリーブオイルを使ってみようか」と思ってインターネットで検索をすると、ネガティブな記事が出てきて困惑したことはありませんか。実際、オリーブオイルってどんな油で、どんな風に使ったらいいのでしょうか。
そんなオリーブオイルの素朴な疑問を、日本のオリーブオイル業界の第一人者である鈴木俊久さんにお聞きしました。
(第1回・3回連載)
鈴木俊久さん
オリーブオイルテイスティング・パネルスーパーバイザー。2002年11月に、日本ではじめて国際オリーブオイル協会(International Olive Council:IOC)からオリーブ・オイル・テイスティング・パネルのカンパニーパネルとして認定を受けた、日本を代表する業界のスペシャリスト。一般社団法人日本オリーブオイルテイスター協会 顧問。
-ここ数年、日本ではオリーブオイルの輸入量・消費量が増え続けています。この人気はどこからきたのでしょうか?
鈴木: もしかしたら「オリーブオイルのファンは若い方たち」という印象を持たれているかもしれませんが、実はそうではないと思うんです。このオリーブオイルのブームを作り出したのは、むしろ健康に関心が強くて収入に余裕がある、ある程度年齢層の高い方々が最初の入り口として入っていかれたのではないかと思います。
若い世代の方々は、「レシピをみたら材料にオリーブオイルって書いてあるわ」でオリーブオイルを購入される方が多いと思うんですけど、一般的には若い方が積極的にオリーブオイルの健康性を求めるということではないと思うんです。
-なるほど。健康に対する意識の高い層の皆さんが、油も「ヘルシー」に着目するようになったのですね。
今の日本は、油を使う家庭料理がかなり減ってきているんです。
「怖い」とか「面倒くさい」とか「キッチンが汚れる」などの理由で、家庭で揚げ物をやりたがらなくなってきましたよね。
そうやって油の使用量が減っていく中で、少量ずつ使うんだったら良い油を使いたいじゃないですか。
体に良くて美味しい油を使いたいということで、かつては「料理用でしかなかった油」が、「調味料的な存在」へと切り替わってきているということだと思います。それと健康性が相まって、オリーブオイルのブームになってきているんじゃないかな、と思うんですよ。
-実際オリーブオイルって本当に体に良いんですか?
鈴木: もちろん、体に良いですよ。薬ではないので、食べた翌日に元気になるという事はないですけどね(笑)
そもそもオリーブオイルの健康効果が研究され始めたのが、1960年代頃からなんです。それまで地中海沿岸地域の人たちにとっては極めて身近にあった食品なだけに、今さら体に良いか悪いかなんてみんなあんまり考えなかったんですよね。
日本人でいう豆腐とか納豆のように、「普段から食べていれば体にいいんだよ」なんていう伝承的な背景と共に食べられてきた程度、というところが事実なんだと思います。それが色んな研究がされていくと、実際に「これもいい」「あれもいい」という成分がどんどん見つかって来たわけです。
-例えばどのような成分ですか?
鈴木: 代表的なものには、オリーブオイルに含まれているオレイン酸があります。
オレイン酸が発見されたのが、オリーブオイルの健康効果が言われ出した最初だったと思います。心臓とか脳血管とかの閉塞系の病気の防止に役立つということが分かったのです。「血管が詰まりにくくなる効果がある」ということで、ブームに火がつきました。
-良い成分が「どんどん」見つかったとおっしゃいましたが、オレイン酸の他にも体に良い成分があるんですか?
鈴木: 他には、オリーブオイルに含まれる微量成分ですね。
オリーブオイル、特に絞っただけで一切の加工を加えない「エキストラバージンオリーブオイル」には、ポリフェノールとかクロロフィルなど、たくさんの有効な微量成分が含まれています。これが他の油と違うところです。
-なぜ他の油にはなくて、オリーブオイルにだけ有効な微量成分が含まれているのですか?
鈴木: 他の油は、どれも精製油なんです。大豆油でも菜種油でも、油を作る工程で精製してその微量成分を取り除いて、無味無臭にしています。
一方でエキストラバージンオリーブオイルは絞っただけの、いわゆる「油性のフレッシュジュース」と言われるくらいですから、そういった微量成分がそのまま入っているんです。決してその量が多いわけではありません。
でもそういった有効成分が残った状態のオイルというのは、非常に少ないんです。他の油で言うと、ごま油くらいしかないと思います。ただ、ごま油はコーヒーと一緒で焙煎しないと全然香りが出ないので、「ロースト」という工程が入ってしまっていますから。本当に生のまま絞って、そのまま使えるっていうのは非常に貴重な油と言えます。
-なるほど。そのエキストラバージンオリーブオイルですが、スーパーには安い物から高い物までズラリと並んでいます。あれはみんな、本物なんですよね?
鈴木: はい。エキストラバージンオリーブオイルと名乗るためには基準に合格していないといけないので、一定以上の品質ではあるはずです。混ぜ物が入っているわけではありません。
-でも、安いのは数百円から、高いのは数千円まで差があります。どうしてこんなに値段が違うのでしょうか?
鈴木: やはり「安いものは品質が悪い」に尽きます。
オリーブは実を絞って出てきたオイルの品質によって、グレード分けされるんです。ですから、エキストラヴァージンオイルは日本酒で言うところの「特級」のような存在といえます。
でもエキストラバージンオリーブオイルというのは、そんなにずば抜けて高い基準ではないんです。基準自体が高くないのでピンキリといいますか、下の方のグレードのエキストラバージンオリーブオイルも当然あります。だから価格設定というのは、「今ある基準に対して、どれくらい上にあるか」という尺度で決定されわけです。
例えばトスカーナ地方で採れる「ピエトロ・コロンビナ」といった高級ラインのオリーブオイルは、基準よりもずっと良い品質のものだということになります。反対に安いエキストラバージンオリーブオイルというのは、限りなく基準に近い物が売られているということです。
-では、私たちがスーパーでオリーブオイルを選ぶときには、何を基準に選んだらいいのでしょうか?
鈴木: うーん、これは凄く難しい質問ですね(笑)
というのも結局、見た目では分からないんですよね。買ってきて、開けて、味をみて初めて「美味しい」とか「私の好みじゃない」とかが分かりますから。
それにデパートとかで1本5,000円とか8,000円とかする高価なオリーブオイルが売られていたりしますけど、もしもそれがなかなか売れなくて半年間棚に並びっぱなしだったとしたら、品質がかなり落ちてしまっているでしょう。
オリーブオイルは価格だけでなくフレッシュさも大切ですから、高い物を買えばいいかと言ったらそれだけではありません。
-そうなんですね。そんな中でも「こういう商品なら一定の品質を担保しているよ」という商品の選び方はありませんか?
鈴木: そういう意味では、表示がちゃんとしている商品を選ばれるといいと思います。
輸入製品でも、ビンの裏に必ず日本語のラベルが付いているはずです。そこで「使用上の注意」とか「保管上の注意」などが細かく書かれていれば、品質に対して意識がある業者が扱っていると思います。
あとは、「賞味期限」です。
オリーブオイルの賞味期限は自己責任的なところがあって、保存の仕方によってもずいぶん変わるので分からないんですよ。それでも最低1年位は残っている物を買う、というのは意識した方がいと思います。
逆に賞味期限が3年とか4年とか、やたら長いのも避けた方がいいでしょう。オリーブオイルの賞味期限のだいたいの目安は1年半~2年程度だと言われていますから。
鈴木: また、「濃い色のついたビン」に入っているというのも大切です。オリーブオイルは光に反応して劣化が進むので、遮光性のあるビンで保存しなければなりません。
-光に弱いんですか?では家庭でも暗い所で保存するべきでしょうか?オリーブオイルといえばビンがオシャレだから、わが家ではキッチンの上で飾りながら収納しているのですが。
鈴木: 絶対にダメですよ!テーブルとかキッチンの上に嬉しそうに並べているご家庭もありますけど、あれはダメです。ちょっとした飾りっぽいので、皆さんそれをやりたがるんですよね(笑)
オリーブオイルは使ったらしまいましょう。
頻繁に使うなら冷蔵庫まで持っていかなくてもいいですけど、なるべく涼しいところにその都度しまうことが大切です。本当はワインセラーが一番いいんですけどね。手っ取り早く遮光するなら、ビンをアルミホイルで包んでしまうといいですよ。オシャレではなくなってしまいますけど(笑)
-そうだったんですね!知りませんでした。帰ったらコンロの下の収納に入れます!その他にも、保存方法で注意点はありますか?
鈴木: オリーブオイルは光と空気で劣化が進みます。ですからビンの場合は寝かせずに、立てた状態で保存しましょう。寝かせるとオイルが横に広がって、空気と接する面が広くなってしまうでしょう。
あとは、大きいビンで買ってきた場合は、小分けにするのも有効です。
大きなビンの中で少しずつ減っていって、空気が触れる部分が多くビンに入れておくよりも、最初に小さなビンに小分けにして保存すると品質が保てます。ああ、だからオシャレも兼ね備えるなら、小さな可愛いビンを買ってきて、日ごろ使う分だけそこに入れてテーブルに置いておくといいかもしれませんね。
最近の醤油と同じように、二重構造で真空保存できる容器に入っているオリーブオイルは、驚くほど品質が長持ちするのでおススメです。
でも結局のところ、「品質を保ちたいなら、なるべく早く使い切ってください」これに尽きます。
高価なオリーブオイルを買ってきて、もったいないから少しずつ使おうなんて考えてはいけませんよ。高価な物ほど、美味しいうちに使い切ってしまいましょう。目安は1ヵ月です。遠慮しないで、どんどん使いましょう!
鈴木さんは日本のオリーブオイル界の重鎮であり、世界のカンパニーパネルであるにもかかわらず、私たちの初歩的な質問に笑顔で丁寧に答えてくださる姿が印象的でした。
鈴木さんの貴重なお話はまだまだ続きます。
ヘルシーで様々な効能を持ったオイルへの注目が高まっています。中でもオリーブオイルの消費量は大きく伸び、同時に、ココナッツオイル、アルガンオイル、亜麻仁油、MCTオイルなど、なじみのなかった様々なオイルも注目されるようになってきました。
しかし、私たち日本人の日常的な食卓では、その活躍の幅はまだまだ狭く、真新しいノートのように真っ白な状態ではないでしょうか。 Olivenoteでは、読者の皆様の意見やオリーブノートアンバサダーへの参加を募りながら、カラダに美味しいオイルを中心に、楽しく健康的な食卓を築いて行ける情報を綴ってゆきます。