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食事がただの消費や道楽になりつつあるこの時代。そんな今だからこそ、敢えて食の安全について考え直してみませんか?
安全な食材の生産現場を取材して、直接生産者の想いを伝えるこの企画。初回は埼玉県鴻巣市で有機農業を営む、ガバレ農場(ひろば)の江原さん夫妻にお話をうかがいました。
編集部:ガバレ農場(“農場”と書いて“ひろば”と読む)を営む江原さん夫妻が栽培・出荷している野菜は、全て有機JASの認定を受けていますね。まずは「有機栽培とは、一体何の事なのか」からお聞きしたいです。
江原浩昭さん(以下、浩昭):農薬や化学肥料が開発される前は、全ての農業は牛や馬の糞など、自然から取れる栄養分だけを使って栽培していました。その頃の農産物は人体にとって安心安全でしたが、一方で干ばつなどの自然現象で簡単に全滅したり、虫にやられてしまうなど、安定的に収穫できないことが大きな問題でした。
その後、化学肥料や農薬が出回るようになると安定的に農作物が作れるようになり、農家の生活が飛躍的に安定しました。農作業が楽になったために外で働く兼業農家を選択できたり、農作物が全滅して生活に困るリスクが低くなったためです。
しかし1970年代に入った頃から、化学肥料や農薬の健康被害が明らかになってきました。農薬を撒いている農家の死亡事故や、化学肥料を作る工場が排出した有害物質で水俣病を引き起こすなど、「化学肥料や農薬って本当に大丈夫なの?」という不信感が日本中に広がったのです。
そこで一部の農家が、「化学物質を一切使わない、安心安全な農作物を作ろう」と原点回帰しました。これが現在の有機農業です。日本の有機栽培は厳しい規定が定められていて、化学的な物質を3年以上使用しない田畑でつくられた農産物だけが認定を受けることができます。その有機栽培の認定を受けるだけでも、毎年10万円程度の費用がかかるのです。
江原広美さん(以下、広美):どんなに頑張って草取りをしても、有機栽培だと天候に大きく左右されるので、十分に収穫できる保証がありません。もちろん私たちもリスク管理として、例えばトマトは、敢えて色んな品種を栽培するなどの工夫をしています。それでもほんの些細なことで、「今年はこの品種が全滅してしまった」という事も起こりますから。もうね、一網打尽って感じですよ(笑)。だからお金よりも大事なものを見ていかないと、有機栽培はできないと思います。
編集部:お金よりも大事なもの、ですか。
広美:そうです。やはり安定的に収穫できないというリスキーな有機栽培をしている農家の根底には、必ず志があります。私たちで言うと、「搾取(さくしゅ)をしない」ということがテーマです。
実は私たち夫婦は、若い頃に青年海外協力隊でアフリカに滞在していた経験があります。その頃の経験と記憶があるので、途上国の人が過酷な労働を強いられて、辛い思いをして安く作られた物は食べたくないと思うのです。先に発展した側が、弱い立場の人たちから搾取して儲かる構図には賛同できません。農業でも同じです。農薬で自然を傷めることは、人から自然への搾取とも言えると思います。
浩昭:それにね、選択肢があることが大切だと思うのです。例えば「農薬や化学肥料って怖い」と消費者が思っても、有機栽培をしている農家がいなければ選択肢がないじゃないですか。世の中の食料にバリエーションがあるというのは、素晴らしいことだと思います。妻の言う搾取も同じです。「あなたが気にすることのいくつかを解決できる、こんな農作物があるよ」という選択肢であるために、私たちは志をもって有機栽培を行っています。
編集部:化学肥料や農薬を使わないで栽培された野菜は、やっぱり美味しいですか。
広美:よかったら食べてみてください。今、うちで取れたスイカと、トマトジュースがありますから。
編集部:美味しい! みずみずしくて、味もしっかりしていますね。私、トマトジュースが苦手なのですが、これなら何杯でも飲めそうです。
広美:ありがとうございます。私たちはうちの野菜ばかり食べているから比べられないけれど、お客様は皆さん「味が濃くて美味しい」と言ってくださいます。
浩昭:化学肥料で、不自然に成長を促していませんからね。うちの農作物に使う肥料は「ぼかし」と言って、鶏糞ともみ殻の堆肥に米糠を混ぜて発酵させるのです。事前に醗酵させておくことで、普通の堆肥よりも肥料効果が高くなります。そうやって肥料から手間ひまかけて作ると、栄養価が高くて味の濃い野菜が採れるのです。
近年、野菜の栄養価が落ちているのをご存知ですか。昔の、化学肥料や農薬を使わなかった頃のホウレンソウの栄養価を100とすると、今のホウレンソウの栄養価は30くらいしかありません。
というのも、畑自体が違うからです。有機の畑は、堆肥を中心とした肥料のミネラル分がバランスよく含まれていることで作物が育ちます。化学肥料ばかり入れている畑では、チッソの働きで作物自体はグングン大きくなるのですが、ミネラル分が不足したまま成長してしまうのです。
広美:そうすると、ホウレンソウが嫌いな子が頑張って一口食べたとしても、摂取できる栄養素はかつての三分の一しかないのです。そこで頑張って三口食べたとしたら、摂取した有毒物質の量も三倍になってしまう(笑)
編集部:そんなに野菜の栄養価が落ちて、栄養摂取の効率が悪くなっているのですか!そう言われてみれば、人参とかホウレンソウって、私が子どもの頃はもっとえぐみのある味だったような気がします。
浩昭:そうでしょう。栄養価が落ちて、味も淡白になってきていますよね。
広美:それに最近って、野菜の美味しさを“糖度”で測る傾向がありませんか。糖度測定器を刺して、「このトマトは、メロンと同じ糖度だから美味しいです」とか、テレビでも糖度を売りにしてばかりです。野菜は糖度ばかりを見て、栄養価をおろそかにしてはいけないと思います。
本来の野菜の美味しさって甘さだけではなく、苦味とかえぐみ、青臭さも含まれているはずです。最近は甘味だけを追求して、味のバリエーションが貧相になってきているようにも思います。そのてん、私たちが作る有機栽培の野菜は野菜本来の味がします。これこそが「旨味」だと思います。
ですから、調理する時は是非一度、何も味つけをしない状態で食べてみていただきたいです。うちの野菜は味が濃いので、味つけは普段より薄味でも美味しく食べられますから。
江原さんが「よかったら皆さんで召し上がってください」と、OLIVE NOTE編集部と読者の皆さんに野菜を分けてくださいました。江原さんが作る有機野菜には苦労と志、そして豊富な栄養が詰まっています。
OLIVE NOTE編集部としては、江原さんの有機野菜には同じく手間ひまかけて大切に作られた、有機栽培のエキストラヴァージンオリーブオイルを合わせたいものです。
名門オリーブオイル農家の4代目であるルイーザさんが、ガバレ農場の江原さんと同じく「自然に優しく、からだが喜ぶ」にこだわって作った100%有機栽培の果実を使ったオリーブオイル。約3年かけて有機栽培の土壌を作り上げ、オリーブの栽培から収穫、搾油までの全てを農園内で行っています。口に含むと若々しく青い香りが広がり、ピリッと喉に響く新鮮さはしっかりとした味の有機野菜にも負けません。
リスク管理の為に、さまざまな品種のプチトマトを栽培している江原さん。そんな彩り豊かなプチトマトは、LUISAを使ってカプレーゼにすると、華々しい見た目に豊かな香りがマッチして絶品でした。味つけは簡単。プチトマトとモッツァレラチーズに塩、バジル、LUISAを合わせるだけ!
【取材協力】
名称:ガバレ農場(ひろば)
住所:埼玉県鴻巣市前砂359
電話:048-548-1173
MAIL:gabarehiroba2@yahoo.co.jp HP
有機エキストラバージンオリーブオイル ルイーザ(LUISA)
有機栽培オリーブ果実100%のエキストラバージンオリーブオイル
ヘルシーで様々な効能を持ったオイルへの注目が高まっています。中でもオリーブオイルの消費量は大きく伸び、同時に、ココナッツオイル、アルガンオイル、亜麻仁油、MCTオイルなど、なじみのなかった様々なオイルも注目されるようになってきました。
しかし、私たち日本人の日常的な食卓では、その活躍の幅はまだまだ狭く、真新しいノートのように真っ白な状態ではないでしょうか。 Olivenoteでは、読者の皆様の意見やオリーブノートアンバサダーへの参加を募りながら、カラダに美味しいオイルを中心に、楽しく健康的な食卓を築いて行ける情報を綴ってゆきます。