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料理人の履歴書
エンツォ・カンチェーミ(カンチェーミ・コーポレーション代表取締役社長兼CEO/イタリアン)
オリーブオイル・ダイニング“ラ・カンティーナ・カンチェーミ”(la cantina cancemi):オリーブオイル専門店を経営するエンツォ社長が手掛けた、日本初のオリーブオイルダイニング。味わいの異なる希少なオリーブオイルを料理によって使い分け、ワインを飲みながら我が家のようにくつろげるレストランです。
“マッカーサーの料理人を務めたシェフ”から受け継いだ繊細な舌を持つ娘さん。今では本場イタリアで、オリーブオイルコンテストの審査員を務めるまでになりました。そんな娘さんの紹介で、オリーブオイルの魅力に出会ったエンツォさん。オリーブオイルの世界の深みにどんどんはまってゆきます……。
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編集部:20年前に初めて良質なオリーブオイルに出会ったエンツォさんですが、その後はどう展開していったのでしょうか。
エンツォ社長(以下、エンツォ):まず私は、「この感動を、日本の馴染みのお客様にもお伝えしたい」と思いました。それで年に一度、11月にその農家の搾りたてオリーブオイルを輸入して父の会社で販売することにしたのです。皆さん、その味に驚いていましたよ。当時日本で暮らしていると、搾りたてのオリーブオイルに出会うチャンスがありませんでしたから。
皆さん喜んでくださいましたが、翌年の11月にまた搾りたてオイルを販売しようとしたときに、驚くべきことに気がつきました。
編集部:驚くべきこと、ですか。
エンツォ:あれだけ「美味しい!」と大感激していたお客様が、気候が温かくなってくる頃から、ほとんどそのオリーブオイルを使わなくなってしまっていたのです。
編集部:どうしてそれが分かったのですか。
エンツォ:翌年、新しい搾りたてオイルを販売しようとしたら、結構な数のお客様が「家にまだ去年のがあるのよ」とおっしゃったからです。よく聞いてみると、11月から12月頃に買って、その頃は美味しくて毎日のように使っていたと皆さんおっしゃいます。でも3月、4月と気候が温かくなってくる頃から、不思議と使わなくなってしまった。いつしか台所の棚にしまいこんでしまって、そのまま余ってしまったと言うのです。
その時には、どうしてそうなってしまったのかわかりませんでした。その後、オリーブオイル専門店を始めて知識が深まるにつれて、オリーブオイルの種類によって合う食材や料理が違うことを知りました。世界には1250種類ものオリーブの品種があるのです。しかも、その1本1本違った個性があります。だからこそ、オリーブオイル1本だけを半年や1年かけて使うのではなく、もっと気軽にたくさんの種類を楽しまないといけないと考えるようになったのです。
それから、一つの農園だけではなく、色んな農園のオリーブオイルに目を向けるようになりました。そうしたら、これがまた面白いんですよ。
編集部:面白いとは、具体的にどういうところでしょうか。
エンツォ:例えばこの、QUATTROCIOCCHI(クアットロチョッキ)社のオリーブオイルなんて、歴史があって最高に面白いです。この農家の男性は、10年前にオリーブオイルの品評会で酷評されて、ガッカリと肩を落としていました。しかしそこで腐らず、審査委員長のアドバイスをしっかりと聞いて、すぐに実行したのです。
例えば審査委員長から、オイルに臭みがある点を指摘されました。考えてみると、その農家では昔から収穫した実を麻袋に入れていました。しかし麻袋は洗えないので袋の臭いが実に残ってしまうと気がつき、麻袋を全て燃やして洗えるカゴに変えました。それから、「収穫の時期を早めなさい」といわれたので、代々12月に行っていた収穫を10月へと変更しました。そうした努力の結果、今ではイタリアを代表する農園として最高評価を獲得するまでに成長したのです。
このように、良質なオリーブオイルを作る農家はどこも深いこだわりを持っています。私は生産者がどういう気持ちでオイルを作り、どのように保管して、どんな気遣いのある人なのか。そういう農家の人間性や、それぞれのオリーブオイルが持つ物語を含めて、オリーブオイルを面白いと感じているのです。だからその1本1本を、最高に美味しく食べていただきたいと思うのです。
編集部:それぞれのオリーブオイルを最高に美味しく食べるには、どうしたらいいのでしょうか。
エンツォ:第一に大切なのが、正しい取扱いです。オリーブオイルは空気、光、高温に弱く、条件が悪いとあっという間に劣化してしまいます。それに、寝かせれば美味しくなるワインと違って、新鮮さも大切です。ですからうちの会社では1年の中で何回も、マメに飛行機で空輸しています。
販売店でもレストランでも、うちは透明のガラス瓶に入れているので光の劣化を恐れてお叱りを受けたこともあるのですが、これには事情があります。デパートで多く販売していることもあり、異物が混入していないことを目視で確実に確認できるように、敢えて透明なのです。その代り販売店では光りも空気も入らない専用フストの中で管理して、必要な分だけを小瓶に入れてはかり売りをする方式にしています。つまりうちのオリーブオイルが初めて光を見るのは、お客様にお渡しする瞬間なのです。
レストランでは光が入らない引き出しの中で保管していますし、100mlという少量ずつなので劣化する前に使い切ることができます。やはり美味しく食べるには、正しい管理が不可欠です。
もう一つ大切なのが、料理との相性です。そのオリーブオイルの味によって、合う料理が違います。だから「このオリーブオイル、美味しくないな」と思ったら、もしかしたら合わせる料理が間違っているのかもしれません。だからうちのレストランでは、各メニューに対してお好きなオリーブオイルをかけていただくシステムになっています。
編集部:各メニューに対して、合わせるオリーブオイルを選べるのですか。
エンツォ:はい。例えばこの前菜の盛り合わせをご覧ください。
豆腐やモッツァレラチーズのような繊細で淡白な味の食材には、ライトフルーティータイプのBONAMINI(ボナミーニ)がよく合います。素材の味を殺さず、寄り添うように華やかな香りを加えてくれます。
シーフードにはミディアムフルーティータイプのDISISA(ディジーザ)がおススメです。オリーブオイルの爽やかな香りが魚介の生臭さを消して、絶妙に美味しくなります。
レバーパテのような濃い味にも負けずに、素材の味を昇華させるには、インテンスフルーティー(ストロング)タイプがいいですね。先ほど話題にあがったQUATTROCIOCCHI(クアットロチョッキ)社のオリーブオイルなんか、とてもよく合います。
編集部:料理に合う、合わないというのは、どうやって分かるのでしょうか。
エンツォ:味のことになると個人の好みもありますから一概には言えませんし、「この料理にこのオリーブオイルをかけるのは失敗!」ということは決してありません。ダメな組み合わせはありませんが、より良いベストマッチを探すイメージです。
例えばQUATTROCIOCCHI(クアットロチョッキ)社のオリーブオイルは非常に良質ですが、ストロングタイプですからサラダにかけると主張が強すぎて苦手だと感じる人もいると思います。うまく言えませんが、「ずっと食べていると飽きてくる」という場合、その料理とオリーブオイルの味が合っていないのかもしれません。
オリーブオイルの味の違いを感じたい方は、是非うちのレストランに来ていただきたいですね。うちのレストランなら一つの料理を半分に分けて、それぞれにライトフルーティータイプとストロングフルーティータイプのオリーブオイルをかけて、食べ比べてみることができます。ライト、ミディアム、ストロングの3タイプをテーブルにご用意して、お客様が好きなようにかけることができますから、味の違いが分かりやすくて面白いですよ。スタッフも皆詳しいので、お気軽にお尋ねください。
編集部:それは面白いですね。貴重なお話と素敵なお料理をありがとうございました。
【店舗情報】
オリーブオイル・ダイニング “ラ・カンティーナ・カンチェーミ”(la cantina cancemi)
住所:東京都千代田区富士見1-9-21 1F・2F
TEL:03-6272-3880
FAX:03-6272-3881
営業時間 :11:30~15:00(L.O.14:00) /17:30~23:00(L.O.22:00)
定休日:第三月曜日
最寄駅:飯田橋駅、九段下駅
URL:http://www.cancemi.jp/cantina/
ヘルシーで様々な効能を持ったオイルへの注目が高まっています。中でもオリーブオイルの消費量は大きく伸び、同時に、ココナッツオイル、アルガンオイル、亜麻仁油、MCTオイルなど、なじみのなかった様々なオイルも注目されるようになってきました。
しかし、私たち日本人の日常的な食卓では、その活躍の幅はまだまだ狭く、真新しいノートのように真っ白な状態ではないでしょうか。 Olivenoteでは、読者の皆様の意見やオリーブノートアンバサダーへの参加を募りながら、カラダに美味しいオイルを中心に、楽しく健康的な食卓を築いて行ける情報を綴ってゆきます。