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2020年4月23日

エンツォ・カンチェーミさん カンチェーミ・コーポレーション(前編)/インタビュー

料理人の履歴書

エンツォ・カンチェーミさん

エンツォ・カンチェーミ(カンチェーミ・コーポレーション代表取締役社長兼CEO/イタリアン)
オリーブオイル・ダイニング“ラ・カンティーナ・カンチェーミ”(la cantina cancemi)オリーブオイル専門店を経営するエンツォ社長が手掛けた、日本初のオリーブオイルダイニング。味わいの異なる希少なオリーブオイルを料理によって使い分け、ワインを飲みながら我が家のようにくつろげるレストランです。

マッカーサーを担当したシェフの息子

編集部:エンツォ社長は、イタリア人と日本人のハーフでいらっしゃいます。やはりエンツォさんが子どものころから、ご家庭で良質なオリーブオイルに親しみながら育ったのでしょうか。

エンツォ社長(以下、エンツォ):いや、私は日本で生まれて日本で育っていますから、家にオリーブオイルはありませんでした。というのも、昔はイタリアでも、オリーブオイルってあまり普及していなかったのです。ローマに味や品質にこだわった本格的なオリーブオイル専門店ができたのは、たった2年前のことですからね。

イタリアでは少し前まで、スーパーのサラミコーナーの隣に安価な地元産のオイルが並んでいた程度でした。今のように「シチリア産のオリーブオイルの味がどうだ」だとか「トスカーナ産の味はどうだ」とか、オリーブオイルをそんな使い方はしていませんでした。イタリア人は地元愛が強いので、そんなことをしたら裏切りになりますからね。

イタリアは日本と違って、昔は細かく国が分かれていた時代がありました。だからこそ「私はミラノ人だ」「私はシチリア人だ」と地元への誇りがすごいので、ミラノの人が敢えてシチリア産のオリーブオイルを買うということは起こり得なかったのです。

編集部:そうなのですか!?てっきりイタリアでは昔から、オリーブオイルの産地や味に深いこだわりがあるのかとばかり思っていました。ところで、エンツォさんは日本生まれなのですね。

エンツォ:はい。もともと父はイタリアで有名な国立料理学校を出て、シェフをしていました。その後イタリア海軍のシェフになり、偶然日本に滞在しているタイミングで終戦となったのです。一度はイタリア海軍の一員という事で投獄されたそうですが、投獄は非人道的だという話になり、父の身柄は旅館に移されました。そこの旅館の娘が、私の母だったのです。

イタリア海軍はその後帰国しましたが、父は母と一緒にいるために日本に留まり、兄2人と私の三兄弟をもうけました。父はイタリア人には珍しく、非常に寡黙で真面目な人柄でした。そんなところも、日本人と気質が合ったのでしょう。旅館の女将だった祖母も、「この人と結婚しなさい」と母に言ったほど誠実な人でした。

編集部:イタリア人は陽気なイメージがありますが、お父様は寡黙なタイプだったのですね。

エンツォ:はい。父は料理の腕と誠実な人柄が評価され、日本にマッカーサー(連合国軍最高司令官)が来た時に、ディナーを担当するコック長に任命されました。マッカーサーが任務を終えて帰国する際に、父に聞いてくれたそうです。

「あなたの料理はとても美味しかった。ご褒美に、何か欲しい物はありますか?」と。それで父は、「イタリアのエスプレッソマシーンが欲しいです」とお願いしました。
それでエスプレッソマシーンが届き、父は日本で初めての本格的なカフェをオープンしました。そしてその後、日本で初めての本格的なイタリアンレストランへと発展していったのです。

お父様とエスプレッソマシーン

父から子へと引き継がれる、愛情と繊細な舌

編集部:マッカーサーから贈られたエスプレッソマシーンで、カフェをオープンですか!壮大なスケールの話ですね。そんなエンツォさんの子どもの頃の思い出の味は何かありますか。

エンツォ:私が今でも鮮明に覚えている感動した料理といえば、父が作ってくれたサラダですね。

忘れもしません。私が学生の頃に、アルバイトで父のレストランを手伝っていたときのことです。お客様がひっきりなしにいらっしゃるので、お昼休憩をとる時間さえありませんでした。もちろんコック長の父はもの凄く忙しかったんですけど、疲れ果てている私を見て、「サラダを作ろう」と言いました。

そこからの事は、今でも映像つきで覚えています。父は野菜を取って、パーンとボウルに入れました。それから塩やドレッシングをパパッとかけて、パンパンパンと混ぜてサッと出したのです。その速さと言ったら!スピーディーで、レタスもシャキシャキで。塩加減から味のバランス、美しい盛りつけまで、全てが完璧でした。あんなに美味しい物を食べたことがありませんでした。

編集部:「思い出の味はお父様のお料理かな」とは思いましたが、サラダとは意外でした。

エンツォ:もちろん、父が作ったパスタやピザも絶品でした。でも、思い出の味を一つだけ選ぶのであれば、それはサラダです。

サラダって一番簡単で、誰でも作れると思いますよね。でも、混ぜすぎると野菜の繊維が傷ついてしまいます。かといって上からドレッシングを単純に振っただけでは、全体に味がいき渡りません。ボウルの中で野菜をパーンパーンと飛ばす感じというのでしょうか。それからふんわりと美しい盛りつけまで、何よりも作る人のセンスが問われる一品だと思います。

編集部:なるほど。サラダって深いのですね。

エンツォ:深いです。私は息子や娘にも料理を作りますが、サラダを作る時はもの凄く集中してつくります。あの味を出したくて。子どもたちは、私が作るサラダが一番美味しいと言ってくれます。その言葉を聞く度に私は、“父がつくるサラダの方が数倍美味しいのにな”と思うのです。

編集部:素敵ですね。3世代に渡る、親子の絆を感じます。幼少期にオリーブオイルがなかったということは、エンツォさんが本格的にオリーブオイルと出会ったのは、どんなきっかけだったのでしょうか。

エンツォ:私の娘の紹介です。娘はアメリカの大学を出てからイタリアに渡り、芸術的な文化に関する仕事をして暮らしています。彼女は非常に繊細な舌をもっていて、本業の仕事とは別に、ワインのソムリエもしています。そんな娘がイタリアでオリーブオイルと出会って、その味にほれ込んだのです。それ以降、ワインだけでなくオリーブオイルの勉強もして、今ではオリーブオイルのコンテストで審査員を務めるまでになっています。

編集部:さすが!繊細な舌が代々引き継がれているのですね。

エンツォ:あはは、そうなんですかね。

私も20年ほど前に、トスカーナにある友人の農園で搾りたてのオリーブオイルを飲ませてもらったのです。その農園でオリーブオイルを見たときは、「なんだこれ」と思いました。搾りたてだったので、深い緑色に濁っていたのです。それまで私は、スーパーで売っているうっすら黄色いオリーブオイルしか見たことがありませんでしたから、まずはその色に度肝を抜かれました。

それで飲んでみたら、あのガツンと来る味でしょう。フレッシュで、青い香りが立っていて。その美味しさに、心底感動しました。今から思えばそのときの感動が、その後のオリーブオイル専門店やオリーブオイルダイニングへと続くきっかけになったのでした。

中央:イタリアで審査員を務める娘さん

マッカーサーの料理人を務めたお父様から引き継いだ繊細な舌は娘さんにも受け継がれ、エンツォさんは日本で生活しながらも本格的なオリーブオイルに出会いました。その後、知れば知るほど面白いオリーブオイルの魅力と、たどり着いたオリーブオイルと料理の正しい合わせ方とは。後編に続きます。

【店舗情報】
オリーブオイル・ダイニング “ラ・カンティーナ・カンチェーミ”(la cantina cancemi)
住所:東京都千代田区富士見1-9-21 1F・2F
TEL:03-6272-3880
FAX:03-6272-3881
営業時間 :11:30~15:00(L.O.14:00) /17:30~23:00(L.O.22:00)
定休日:第三月曜日
最寄駅:飯田橋駅、九段下駅
URL:http://www.cancemi.jp/cantina/

企画:オリーブノート編集部
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